カルテット9話

カルテット9話が良すぎたので、人生で初めて、ドラマについてのブログを書いてしまう。

9話は、これまでの話に触れる集大成的な話であったと思う。

冒頭部分、本当の早乙女マキが現れる。
自転車泥棒で警察に捕まり、そこで戸籍を売った件が展開される。

大菅と鏡子の会話からあっさりと明かされる巻マキ(早乙女マキ)(ヤマモトアキコ)の過去。
普通のドラマなら数話かけるような、つまりはメインとなる内容を、開幕数分で片付けてしまう。

マキの本名がヤマモトアキコという事実が、謎解きや壮大な伏線もなく、ただの情報としてあっさり処理される。
あんなに盛り上がっていた「早乙女感」とはなんだったのか。

サスペンスと銘打った本ドラマで、サスペンスはあくまでもトッピングだと再認識する。

シーンが切り替わり、マキとすずめの買い物。
「見るだけ見るだけ〜」と言いながらの洋服屋。

すずめはマキにタメ口になり、距離が近くなったことをうかがわせる。
そこでマキがすずめに誕生日を聞いたことをきっかけに、すずめもマキに誕生日を聞く。

すずめ「マキさんは8月…」
マキ「8月10日。えっ、プレゼントしてくれんの?」

返しが食い気味である。マキが他人の戸籍で生きていると知らなければ気づかない、自然な食い気味での回答。この辺りで既に少し切なくなってくる。
マキはこれまでずっと、他人の人生を生きてきた。

2人が別荘に戻り、カルテットでは既にお馴染みの飯テロシーン。9話はチャーハンだ。

猫を飼いたい話から、留守にしている間かわいそう、じゃあ熱帯魚とかどうですか?と会話が展開していく。

「良いですね、ニモとか」
「ニモかわいいですよね」
「かわいいですよね」

この時の家森の顔である。

家森「ニモって?」
別府「ニモですよ」

そして家森が走り出し、ホッチキスを手にする。

家森「これはなんですか?」

マキ、すずめ、別府、さらに視聴者も含め、「また始まった…」となる家森節が炸裂する。

別府「ホッチキスです」
家森「いいえ違います。これの名前はステープラー

家森「これは?」
すずめ「肘(面倒臭そう)」
家森「これ〜」
マキ「バンドエイド」
家森「違う。絆創膏」

家森「ホッチキスは商品名でしょ。バンドエイドも商品名でしょ。ポストイットは付箋紙。タッパーはプラスチック製密閉容器。ドラえもんは?」
別府「猫型ロボット」
家森「YAZAWAは?」
マキ「矢沢永吉
家森「トイレ詰まった時のバッコンは?」
すずめ「…?」
家森「ラバーカップでしょ。あと君また袖にご飯粒つく!」

面倒な講義中にすずめに注意するのは、2話での行間案件と同じである。「あとまた君トイレのスリッパ履いてるな!」

家森「あの魚の名前はカクレクマノミ。ニモは商品名です(違う)。本当の名前で呼んで!」

お馴染みとなったパターンだが、今回も家森が話の主題を口にする。「本当の名前で呼んで!」
もっともマキはヤマモトアキコの名で呼ばれることを望んではいないが。

家森講義に3人が雑なリアクションしかしない中、チャイムが鳴る。我先に玄関に向かうのは、おそらく家森講義が面倒だからで、その様相が愛おしい。

チャイムの主は恐らく不動産屋で、別荘が売られるかもしれない事実がようやくメンバーに通達される。

家森「でもこのままだと将来本当にキリギリスになっちゃって」
マキ「飢え死にしちゃって」
すずめ「孤独死しちゃって」
家森「僕たちもう、そろそろ社会人としてちゃんとしないと」

一番ちゃんとしていない家森がそんな事を口にする。

ここで、個人的には一番ささった別府の一言。

別府「ちゃんとした結果が僕です」

「ちゃんとしようよ」ばっかり言ってた僕は今…

ダメ人間の集まりのカルテットドーナッツホールの中で唯一「ちゃんとしている(ストーカーだけど)大人」な別府が言うのである。

別府「僕は皆さんのちゃんとしてない所が好きです。たとえ世界中から責められたとしても、僕は全力で皆んなを甘やかしますから」

圧倒的な肯定。ダメな大人に対する愛おしさ。きっと、夢があって、諦めてちゃんと就職して、ちゃんと生きてるけど、夢を本当は諦めきれていない、ちゃんとしていないちゃんとした大人にはこのシーンは非常に辛く、優しいものだったと思う。

鏡子とミキオの面会サスペンスシーンは割愛して、ノクターン

みんな大好きで大嫌いなアリスの登場である。
いきなり株が大暴落する。5話くらいのお前だぞ。

ここで大二郎を口説きに(店を乗っ取ろうとしに)行く為に、ヒールを折る。徹底した悪女である。

谷間さんとカルテットメンバーが見守る中、3話ですずめにレクチャーした通り(告白は子供がするものです。大人は誘惑してください)、アリスは猫になり、雨に濡れた犬になり、トラになる。

扉の向こうから無言で見守る谷間さんの表情の演技が素晴らしい。

そしてアリスが大二郎の膝に跨り、ペットボトル一本分の距離まで顔を近づけた時、

大二郎「君何してんの?」
アリス「うん?」
大二郎「そういうのやめてくれる?僕ママのこと愛してるんで」

またしても谷間さんの表情が素晴らしいがそれはさて置き、5話で「夫婦に恋愛感情はない。嘘で成り立ってる」と断定したアリスが、夫婦の愛にあっさりと敗れたのだ。
その内容はさることながら、吉岡里帆にあんなにも密着されるサンドウィッチマンの趣味で人殺してそうな方がただただ羨ましい。そんな事はどうでもいい。

「あっそうですか?は〜い」とさっぱりと部屋から出て行き、谷間さんとカルテットメンバーに遭遇。いつも通りに「おかえりなさ〜い」この女最恐である。

そして退職金を渡されクビになるアリス。
一話で手切れ金を渡され不貞腐れていたベンジャミン瀧田と、それでも笑顔で「タカミさんだ〜いすき」と言ってのける対比である。

そしてカルテットメンバーそれぞれに挨拶をしていく。

アリス「マキさん、私の事忘れないでね」
マキ「多分忘れられません」
一度は埋めようとした間柄である。

アリス「家森さん、いつスキー連れてってくれるんですか?」
家森「こちらから連絡します」
行間案件である。「連絡しますっていうのは、連絡しないでって意味でしょ!」

アリス「え〜と」
別府「あっ…別府です」
アリス「別府さん!大好き!」
別府さん…

アリス「すずめさん、私と組んでなにか大きい事…」
無言でクビを振りまくるすずめ。可愛い。思えば一番アリスに苦しめられたのはすずめである。
アリス「そう?」

そして改めてカルテットメンバーを見直し「そうですか」
「そうですか」の重みが凄い。淀君とまであだ名された彼女はきっと昔にもこういう事は何度もあって、自分と他人の距離はしっかりわかっているのだろう。

アリス「不思議の国に〜連れてっちゃうぞ〜」
アリスは元地下アイドル。最後にアリスはアイドル(偶像)であることをメンバーに見せるのだ。

耳に手を当てるアリスに少しだけ手を上げかける家森がかわいい。

アリス「アリスでした!じゃあね!バイバイ!」

淀君とまであだ名されたアリスはついにノクターンを破壊できず、退場する。

徹底した目の笑っていない演技。吉岡里帆の演技は大変良かった。演技が上手すぎてちょっと嫌いになった。

シーンは変わり、別府は実家へ、家森は割烹和食の面接へ。
穏やかな陽光の射し込む部屋で、マキがステープラーを眺めて微笑んでいる。
日常を反芻して微笑んでいるのかもしれない。こんなつまらない人間の人生なんていらないといっていたマキが。

すずめが一時的に帰宅し、子供の頃の話で、無意識にマキを追い込んでいく。すれ違うはずのない地下鉄は軽井沢に繋がっている。

すずめ「マキさんみたいに嘘のない人と出会ってたら子供の頃も楽しかったかな?」
5話でマキが「すずめちゃんのように嘘のない人」と言ったのとの対比である。

二人とも、言われたその瞬間に大きな嘘がある。
これは本当に苦しい。見ていて、松たか子の演技が上手すぎて辛かった。

そしてミキオと大菅。

ミキオ「あの子は僕と結婚して、僕の戸籍に入って名前も変わったんです。ヤマモトアキコじゃなくて早乙女マキじゃなくて、巻マキになったんです。それがマキちゃんの欲しかった名前だった」

ミキオ「そうか…マキちゃん、普通の人になりたかったんだ」

こんなの泣いてしまいますよね。クドカン良い…。

そしてチワワに負けた別府をマキとすずめが慰める。家森がバイト決まりました!と帰宅し、祝賀会に。なんとアリスの代わりにノクターン。大二郎に「家森くん、逃走中だったりしないよね?」と名指しで疑われていた頃からえらい出世である。

家森「これで僕もまともな社会人です」
それは違うだろ。甘えるな。

パンツの話や、スターシップVSゴーストという、宇宙も幽霊も出てこない、最高な気配のする映画を勧める別府。人魚VS半魚人の時のようにマキに投げられる。
楽しげな会話の中、大菅が現れる。

名前を明かされるマキ。すずめの目。2人の演技が最高だった。家森と別府は外から心配してる。とことん蚊帳の外である。

マキ「ごめんねすずめちゃん、私たち地下鉄ですれ違うはずなかったの」

部屋に篭ったマキに対してのノック。二話で思春期別府を呼んだように、家森は同じポーズで。マキがいた場所には別府がいる。向きは逆。

一階に降りていくマキ。「すぐ暖かくなりますから」と蒔きを用意する家森。ハーブティーを入れる別府。

マキは独白の途中で泣き出してしまう。「私嘘だったんですよ」

すずめ「マキさんもういい」

すずめ「もういい。いい。もういいよ。もう何も言わなくていい。マキさんが昔誰だったかとか何も。私たちが知ってるのはこの…このマキさんで、他のとか…どうでもいい。すっごくどうでもいい。裏切ってないよ。人を好きになることって絶対裏切らないから。知ってるよ。マキさんがみんなのこと好きな事くらい。絶対それは嘘なはずないよ。だって溢れてたもん。人を好きになるって勝手にこぼれるものでしょ?こぼれたものが嘘なわけないよ」

3話との美しい対比である。父親に会いに病院に行きたくないすずめ。「家族だから行かなきゃダメかな…」「いいよ、行かなくていい。みんなの所帰ろう」そういったマキの肯定がすずめの肯定として帰ってくる。人を好きになるって勝手にこぼれるものと、マキもそう言った。

すずめ「過去とか…そういうのなくても音楽やれたし。道で演奏したら楽しかったでしょ?マキさんは奏者でしょ?音楽は戻らないよ。前に進むだけだよ。一緒。心が動いたら前に進む。好きになった時、人って過去から前に進む」

すずめ「私はマキさんが好き。今、信じてほしいか信じて欲しくないか、それだけ言って」

間。

マキ「信じてほしい!」

すずめの笑顔。「それ!」

家森が暖炉に火を灯す。すぐ暖かくなったのだ。

スターシップVSゴーストを観る四人。

家森「別府くん、これいつ面白くなるの?」

家森のこの言葉は、カルテットを面白いと思わない人に向けた言葉ともとれる。

普通のドラマならテーマとなるような家族愛やサスペンスは数分でけりをつけられる。

すずめは父の死に目に合わないし、ミキオは死んでいないし、鏡子は最後まで敵な訳ではない。

そしてマキとすずめがビームフラッシュやスティックボムを並べる中、家森と別府がワインを飲んでいる。

家森「二重類ね、いるんだよね」
別府「はい」
家森「人生やり直すスイッチがあったら、押す人間と、押さない人間。僕はね、もう…押しませ〜ん」
家森「ねぇ、何で押さないと思う?」
別府「さあ…」
家森「みんなと出会ったから。ねっねっ」

家森が別府の腕を控えめに叩く。人を好きな気持ちはこぼれるものなのだ。
スティックボムが前に進み出す。
心が動いたら、前に進むのだ。
「あの時6000万当たってたら…」と言ってチャマコに怒られていた家森は、もう人生やり直すスイッチは押さない。

そしてマキさんが先に眠る。かつてすずめが眠った時、「みんながいる場所で寝たい時ってあるじゃないですか」と優しく別府に諭したあの場所で、マキが眠る。

翌朝、ウルトラソウルパンツを発掘し、マキがすずめに投げて悲鳴が上がる。
大きな子供たちの修学旅行のような和やかな雰囲気。一転して、男性陣は車へ。マキとすずめは、一話をなぞるように曇り空を眺める。

そしてノクターン。みんながマキを見てアヴェマリア、そしてモルダウと演奏する。

楽屋。明日のパン。シャンプー。自分がいなくなった後の事を気にしての発言。

家森がマキの髪を直し、落とした荷物を別府が拾う。綺麗ですよの言葉と、俯くすずめ。

マキ「家森さん、私も人生やり直しスイッチは、もう押さないと思います」

マキ「別府さん、あの日、カラオケボックスで会えたのは、やっぱり運命だったんじゃないかな」

過去を肯定していく。
すずめにヴァイオリンを預けるマキ。

すずめ「マキさん」
マキ「うん?」
すずめ「誕生日いつ?」
マキ「6月1日」

食い気味の8月ではない、誕生日。
すずめがニコリと笑って、「一緒に待ってるね」

マキが出て行き、すぐに泣いてしまうすずめ。家森と別府が優しく手を添える。

任意同行におとなしく従うマキ。頭の中に思い出したい音楽がたくさんあるから、ラジオを消すように求める。

ちらと映る、少女時代のすずめ。チェロを背負った後ろ姿はカブトムシのようだ。

真っ暗な部屋での家森の涙。
え、家森が泣くの?と思った人は多いだろうから、もしかすると一番掘り下げられてないように見える家森にはまだなにかあるのかもしれないし、それもただの深読みで、家森の情なだけかもしれない。

暗い部屋ですずめがどう見ても朝食な夕飯を作る。朝は新しいスタートだ。

泣きながらご飯食べたことある人は、生きていけるのだ。